石川 守 Ishikawa Mamoru
 
 はじめに

強皮症は膠原病の一つで、線維化を特徴とする皮膚・肺・消化管症状とレイノー現象を特徴とする血管病変により身体のいろいろな部分に様々な症状がおきます。強皮症の中には、内臓病変を比較的高率に合併する強皮症があり、本症を中心に説明します。これから説明する症状は、必ず全部の患者さんにみられるわけではありません。ひとりひとりの患者さんに出現する症状の組み合わせはそれぞれ異なり、将来どの症状がでてくるかを予測することは、現在はまだ困難なのです。病気の原因はまだ十分に明らかにされていませんが、線維化を生じる代謝異常や免疫異常の関与が推測されています。



 病気について

1. レイノー現象

レイノー現象は強皮症の最初の症状であることが多く、約90%の患者さんにみられます。レイノー現象とは、寒冷刺激(冷たい水に触れる、冬期気温の低い屋外へ出たり、夏期クーラーの強く効いた部屋に入る、氷に触れたり冷蔵庫に手を入れる)や精神的刺激によって、手の指や足の指が発作的に血行障害を起こす現象で、血管のけいれんによって起こると考えられています。典型的な場合は、指先が突然白く変色し、ついで紫色に変化した後に、紅くなってもとにもどるという、三つの変化をおこします。白色、紫色に変化した段階ではしばしばしびれ感、冷感、違和感、痛みなどの自覚症状をともないます。

2. 皮膚症状
(1) 皮膚の硬化
強皮症の皮膚硬化(皮膚が硬くなる変化)は通常指先から始まり、徐々に身体の中心の方向にむかって進んでいきますが、例外もあります。皮膚硬化が軽い段階では「皮膚がつまみにくい」だけで、診察時に指摘されるまで自覚していなかったということも希ではありません。皮膚硬化が進行した場合は「皮膚がつっぱって、光沢がある」という状態になります。
顔面の皮膚にも硬化がくることがあり、この場合は顔の表情が変わったり、口が十分に開かなくなったりすることもあります。
(2) 皮膚の潰瘍
しばしば手足にレイノー現象などの血行障害が強いと、そのために潰瘍が生じます。よくみられる部位は、指先、つま先などですが、そのほか手の甲、肘、かかとなどにもみられます。外気温の低くなる冬季にとくに多い症状です。
(3) 皮膚の色素異常
 全身の皮膚が黒ずんできたり、部分的には皮膚が黒ずんだり、また反対に白く色素の低下した色素脱失がみられたりします。
(4) 皮膚の血管拡張
顔面や手足に赤あざのような小さな血管が拡張した斑点がみられることがあります。目立つ場所にできてしまった場合は気になるかもしれませんがとくに害はありません。診察の時以外は化粧で隠しても結構です。
(5) 皮膚の乾燥、かゆみ
 皮膚の硬い変化が強い場合は、皮膚の乾燥、かゆみをともなってくることがあります。皮膚の手入れをする軟膏、クリームなどやかゆみをおさえる内服薬が必要な場合もあります。

3. 関節症状

強皮症では、肘、膝、手首などの関節に痛みや炎症をともなうことがあります。適度に手足の曲げ伸ばしを心がけることが大切です。

4. 消化器症状

 強皮症では消化器全般に病変がくることがありますが、もっともよくみられるのは食道の変化です。食道にも筋組織が線維組織に置き変わるために硬くなる変化が生じ、「食べものが通りにくい」または胃の中の胃酸が食道に逆流して逆流性食道炎とが起こり、「胸やけがする」などの症状がおきます。頻度はそれほど多くはありませんが、慢性の下痢や便秘が続くこともあります。また、小腸が障害されると、腹部膨満感や、症状が強い場合には腸閉塞や呼吸不良症候群といった合併症がみられることもあります。

5. 肺症状

強皮症では肺にも硬くなる変化(線維化)が生じ、肺線維症がみられます。自覚症状としては、慢性の咳、疲れやすい、息切れ、階段が昇りづらいなどを引き起こします。肺の変化をチェックするためには定期的な胸部のレントゲン撮影や呼吸機能検査(肺活量を測定する検査のようなもの)が必要です。その他、肺の血管に変化が起こり、肺の血管抵抗が高くなり、肺高血圧症という変化をきたすこともあります。

6. 心症状

 強皮症における心臓の変化は希ですが心臓の筋肉も硬くなることがあり、心臓の機能が障害されることがあります。また肺の変化が高度な場合は二次的に心臓の機能が弱まってしまうこともあります。定期的に心電図検査を受けることが必要でしょう。また、心臓のまわりに水がたまる心外膜炎がみられることもあります。

7. 腎症状
腎における強皮症の病変は「強皮症腎」とよばれ、しばしば突然発病しますが、それほど頻度の多いものではありません。腎の血管が狭くなる変化を起こし、そのために高血圧を起こします。自覚症状としては、頭痛、頭部の不快感、めまい、胸痛などが認められます。また尿がまったく出なくなってしまうこともあります。早期に適切な治療がおこなわれない場合には腎不全に至ることもありますが、最近ではこの症状に対してカプトリルという非常に効果的な降圧剤が開発されています。

8. 検査成績

抗核抗体は、膠原病である全身性エリテマトーデスの患者さんの血液中で高頻度に検出されることが知られていました。ところが、検査法の進歩にともない、強皮症の患者さんでも90%ぐらいに検出されることがわかってきました。抗核抗体はいろいろな検査方法によってさらにこまかいタイプにわけられます。
(1) 抗セントロメア抗体:強皮症の軽症例(特にCREST症候群)に特徴的とされていますが、レイノー現象のみを持っている人でもしばしば陽性になります。
(2) 抗トポイソメラーゼ。抗体:最近までは抗Scl-70抗体という名もしばしば使われていました。この抗体を持っている人はほぼ100%強皮症の患者に限られ、比較的典型的な患者で、皮膚硬化が強く出現する傾向があります。
(3) 抗n-RNP抗体:混合性結合組織病の患者さんではほぼ100%この抗体が陽性になりますが、強皮症の患者さんの一部でも陽性になります。
(4) その他の抗体:頻度はそれほど多くはありませんが、Ku抗体(強皮症と多発性筋炎の重複患者に多い)、PM-Scl抗体(同じく強皮症と多発性筋炎の重複患者に多い、ただし日本人では希)、RNAポリメーゼ抗体、抗核小体抗体などが強皮症で認められます。

抗体の意義
(1) かなり早期から抗体が陽性になるので早期診断上の参考となる。
(2) それぞれの抗体によって出現しやすい症状、しにくい症状の組み合わせがわかっており、診療上参考となる。
(3) 一人の患者さんが、上記の抗体(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ。抗体、抗n-RNP抗体)を二つ以上持っていることは少なく、同じ抗体が陽性になったり陰性になったりと変化することがなく、持続して出現します。

9. 強皮症の特殊型
 強皮症の症状はそれぞれの患者さんによってさまざまであり、強皮症と診断されるケースのなかにいろいろな特殊型が存在することが知られています。ここではCREST症候群と皮膚の硬くない強皮症について説明します。
 
CREST症候群
CREST症候群は、以下五つの症状を伴う病態ですが、本質的には強皮症の一亜型と考えられるようになってきました。
Calsinosis(皮膚または皮下にみられるカルシウム沈着):強皮症では指先によくみられます。
Raynaud's phenomenon(レイノー現象)
Esophageal involvement(食道病変):食道の下部が拡張したり、食道の動きが悪くなる症状です。
Sclerodactyly(強指症指):先が硬くなっている病態で、強皮症の患者さんに認められます。
Teleangiectasia(細血管拡張):この病態も強皮症でしばしば認められます。


 薬物治療

1. 血管拡張剤
レイノー現象を防止したり、末梢循環障害を改善するためにいろいろな種類の血管拡張剤が使われています。しもやけの治療に使われるビタミンEも血管拡張剤として作用します。血圧降下剤や脳代謝改善剤として比較的最近開発されたカルシウム拮抗剤といわれるいくつかの薬剤も有効です。
なおりにくい皮膚の潰瘍がある場合には、プロスタグランジンといわれる物質を使用することもあります。

2. 副腎皮質ステロイド薬
副腎皮質ステロイド薬は膠原病一般に広く用いられており、強皮症では比較的早期の場合、炎症症状が強い場合、筋炎など他の膠原病の症状がある場合などに使われます。強皮症の皮膚の硬くなった変化に対しても効果が認められますが、ある程度の副作用も予想されるため限られた患者さんに対してのみ投与されます。

3. 皮膚硬化に対する治療薬
皮膚硬化に対しては、D-ペニシラミンや抗アレルギー薬(ケトチフェン)などいくつかの薬剤が使用されており、ある程度の効果が期待されています。

4. その他の薬剤
 逆流性食道炎などの消化器症状に対して消化器系薬剤、関節炎に対して炎症をおさえる非ステロイド系抗炎症薬、皮膚潰瘍の細菌感染に対して抗生物質、強皮症腎(腎クリーゼ)の変化に対して血圧を下げる薬剤などいろいろな薬剤が用いられています。


 日常生活の注意

1. レイノー現象
レイノー現象を防ぐためにはいろいろな注意が必要です。もっとも重要なことは、寒冷刺激を避けることです。具体的には冬季、外出時に手袋、マフラー、分厚い靴下などによって十分な防寒を心がけることや、夏季、クーラーを強くかけすぎないようにするといった注意が必要です。また、携帯カイロ(ホカロンなど)をつねにもち、すぐに手を暖められるように準備してください。炊事、料理、洗濯などの際にはできるだけお湯を使うようにして冷たい水は使わないようにしてください。冷凍食品を扱ったり、冷蔵庫に手を入れる場合には、こまめに手袋をするように心がけてください。精神的緊張を避け、できるだけリラックスすることも大切です。タバコは血行を悪化させる作用があるので絶対にやめてください。
もしレイノー症状がでてしまった時は、手をこすりあわせたり、マッサージをして暖めてください。「携帯カイロ」などできるだけ早く手を暖めてください。ソフトボールの投手のように腕をぐるぐるまわしてみるのもよい方法でしょう。

2. 皮膚潰瘍
 障害されている場合には、治療に根気と時間が必要です。
局所を暖かくすることと消毒によって清潔にすることが必要ですが、症状の程度により、抗生物質の入った軟膏、抗生物質の内服薬、炎症をおさえる内服薬、血行を改善させる内服薬や注射薬が必要です。皮膚の潰瘍が生じた場合はすぐ医師に相談して、適切な処置の方法を指示してもらってください。

3. その他の注意
・ タバコは絶対にやめてください。血流を悪くしたり、肺の症状を進行させたりする作用があるからです。     
・ 手足を暖かく保温することを心がけてください。とくに外気温が低い場合は、手袋や厚手の靴下などを必ず身につけてください。
・ 大部分の患者さんは通常の日常生活を送るのに問題はありません。でも、激しい運動や疲労を残すような無理な活動は避けてください。何ごともマイペース!
・ 大部分の患者さんは家庭の主婦で特定の仕事を持っていないと思います。新しく何か仕事を始めたいという場合には必ず相談してください。勤務時間の不規則な仕事、化学薬品を扱う仕事、冷たい温度に手をさらす仕事などはよくありません。
・ 強皮症の患者さんに対して知人、友人のかたが、特殊な治療や健康増進法などを勧めることがあると思います。漢方療法、運動療法、自然食品、特殊なマッサージ、新興宗教と関連した治療などさまざまです。われわれはこれらのすべてがまったく意味のないものとは考えていませんが、営利を目的としたインチキなものが混じっているのも確かです。
・ 手足の末梢の血流に障害があることが多いので、小さな傷がなおりにくいという問題をかかえています。たとえ、ほんのちょっとした傷でも消毒をきちんとするようにし、さらに状況に応じてわれわれに相談するようにしてください。
・ 一般に消化のよい食べやすいものを選んで十分な栄養をとってください。例外として治療で副腎皮質ホルモンを内服している人は、副作用で体重が増えすぎることがあるので、カロリーを計算してバランスのよい食事をとってください。
・ 消化器症状のない人に限っては、少量のアルコールは血行を良くするので、問題はありません。もちろん、飲み過ぎはダメ!
・ 入浴は血行を改善したり、精神的緊張をときほぐす作用があるので有用です。小さな傷や潰瘍がある場合でも入浴後すぐにきちんと消毒すればOKです。


 最後に
 強皮症の原因治療はまだありません。しかし、いままで挙げた注意を守り薬物療法を併用することで、かなり症状を軽くしたり、進行を遅らすことができます。しかし、患者自身の自己管理も重要です。でも、あまり深刻にならないでください。精神的なストレスは病気にもよくありません。気楽に、明るく、生活を送りましょう。