広範囲の疼痛をきたす患者さんを診察する場合、線維筋痛症を念頭において、診断を勧めるということは、最近、医師の間にも浸透してきました。また、線維筋痛症を発病する基盤に他のリウマチ性疾患が時々みられるということはよく言われています。関節リウマチ、シェーグレン症候群、変形性脊椎症などは注意しなければならない病気です。
ところが、このリウマチ性疾患のなかで、日本の医学界でも未だに認知度が低い疾患があります。それは血清反応陰性脊椎関節炎と言われている病気です。略して脊椎関節炎ということが多くなりました。我が国にも日本脊椎関節炎研究会という学術団体があります。2005年には大阪市、2006年には奈良市で研究会が開催されました。
1)病因、分類など
脊椎関節炎とはひとことで言いますと、脊椎、仙腸関節、四肢の関節をおかす慢性炎症性疾患です。関節リウマチの遠い親戚といわれています。また、新しい病気ではなく、
従来、強直性脊椎炎といわれていた病気が代表格ですが、他には乾癬性関節炎、掌蹠膿疱症関節炎、腸炎性関節炎、ぶどう膜炎由来の関節炎、反応性関節炎などが含まれます。先行する疾患がありますと、比較的早い時期に診断されますが、そのような目立つ物がないと、診断は相当おくれると言われています。一説には米国でも確定診断までには7〜8年かかると言われています。
特に問題なのが、皮膚疾患などの先行するものがなく、分類ができない未分化型脊椎関節炎(undifferentiated spondylarthritis)です。これは分類不能脊椎関節炎ともよばれ、欧米でも一般には認知度が低い疾患です。実際には相当数の患者さんが存在すると推定されています。
米国脊椎炎連盟のホームページ
Spondylitis
Association of America - Ankylosing Spondylitis and Related Disease
Information & Supportには未分化型脊椎関節炎に関する説明が詳しく出ています
Undifferentiated Spondyloarthritis
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線維筋痛症と脊椎関節炎の関係 |
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脊椎関節炎に線維筋痛症を合併している頻度は高い |
強直性脊椎炎という病気は脊椎関節炎の典型的なタイプです。脊椎に「竹の節変形」(bamboo
spineとも言う)が起こることから命名され、代表格の病気ですが、この病気全体を表すにはやや不充分であるなどの考えから、頻繁には使われなくなり、病気のグループ全体を表すには「脊椎関節炎」がよく使われています。また、血清反応陰性という意味はリウマトイド因子が陰性であることを示します。別の言い方としてリウマチ反応陰性脊椎関節炎といういい方もされます。時には炎症の数値が低いこともあるため、脊椎関節炎ではなく脊椎関節症という場合もあります。
現実に患者さんは非常に多いにもかかわらず、この疾患名の認知度が極めて低いので、医師によっては正式な病名ではなく、”リウマチもどき”、とか”かくれリウマチ”と非公式に呼んでいます。そして、正式には”関節リウマチの疑い”とされ、保険請求時の病名では”関節リウマチ”として医療費の請求がされています。実際に、関節リウマチと診断されて、治療されている場合が多く、最近では四肢関節に腫れがない場合は線維筋痛症と診断され、治療されている場合が多いようです。
2)症状
脊椎関節炎で初めに炎症を起こす部位は、腱や靱帯が骨へ付く場所、すなわち付着部です。この部位の炎症を付着部炎といいます。この疾患では多発性付着部炎という状態を起こすことが多く、ときに靭帯あるいは関節が腫れることがありますが、全く腫脹がない症例も多くみられます。患者さんは四肢と体幹に広範囲の疼痛を訴えることがよくあります。症状は背部痛、腰殿部痛、胸鎖部痛、股関節、膝痛、踵部痛などです。そのほか四肢の筋肉痛、腱や靱帯の痛み、また、両手指のむくみ、特に指がソーセージ様にむくむこともあります。また、1日のなかでも疼痛の強さが変わったり、また、時期によって痛い場所が移動することもあります。
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足部の後方 |
手指の炎症 |
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アキレス腱付着部炎のためアキレス腱の周囲が浮腫んでいる。腱のレリーフがはっきりしないことがわかる。 |
手指全体が浮腫んで、ソーセージ様である。関節リウマチの様な紡錘形の腫れではない。 |
3)診断
疼痛の既往歴、レントゲン所見、あるいは付着部炎などから診断ができるように、次の3つの診断基準が利用されています。ヨーロッパ診断基準、アモールの診断基準、改正ニューヨーク診断基準、が用いられており、いずれを用いてもほとんど診断は可能です。とくに四肢体幹の腱と靱帯数10ヶ所の圧痛を確認すると、多発性付着部炎が評価され、診断にも役立ちます。また、脊椎可動性の検査(ショーバーテスト)を行うことも大切です。血液検査では赤沈、CRP、MMP-3などを調べ、画像所見では通常のレントゲン写真で、脊椎の靭帯棘(syndesmophyteの和訳)、あるいは椎間関節の癒合、仙腸関節の不整、硬化などを確認するとよいでしょう。しかし、顕著な画像所見がなくとも診断は可能です。従来、認識されていた「竹の節変形」(bamboo
spine、強直性脊椎炎の典型像)は極めて稀ですので、これがないからといって、診断を諦めるには及びません。
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仙腸関節のX線像 |
仙腸関節のCT像 |
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仙腸関節炎のため、関節の部位が白く硬化している。 |
仙腸関節炎のため、腸骨側と仙骨側が硬化して白い。
右仙腸関節は一部骨化して 、つながっている。 |
4)治療
薬物療法、リハビリテーション、そして、日常生活上の指導の3者があります。治療の根幹としての薬物療法では第1段階として抗炎・鎮痛剤(ロキソニンなど)、第2段階としてステロイド剤(プレドニゾロンなど)、第3段階として免疫調節剤(アザルフィジンEN)、第4段階として免疫抑制剤(リウマトレックス、プログラフ)、第5段階としてTNF阻害薬(レミケード、エンブレル)などの投与が挙げられます。以上の薬剤の使用方法は関節リウマチの薬物治療とかなり似ています。関節リウマチには効果があっても、脊椎関節炎にはほとんど効果がないものもありますので、注意が必要です。
リハビリテーションでは、運動療法としてストレッチ体操が基本となります。気をつけたいのは、椎間板ヘルニアの場合に行う前屈の体操は避けるようにしてください。症状が悪化します。むしろ、体を反らせる体操が大切です。昨年、トリノオリンピックで金メダルを取った荒川静香さんのようにイナバウアーをしたときのような体に近い体操が行われます。極端にそのような体操をする必要はありませんが、基本はストレッチ体操です。
病状が落ちついている場合はスポーツを行ってよいといわれていますが、柔道など格闘技、重量挙げ、ラグビーなどは避けるべきスポーツです。日常生活上の指導は多岐にわたるので、専門医に相談しましょう。基本は同一の動作を長時間続けること、急激な動作をおこなうこと、重量物を運搬することなどは禁止事項です。炎症症状が高度の場合は入院治療が必要になることがあります。
5)予後
ほとんどの患者さんは非常に辛い状態から脱することができると考えられます。一方、薬物の効果が現れにくい患者さんもあって、苦労されている方もいらっしゃいます。私の診療している患者さんで脊椎強直のケースは多くはありませんが、多発性付着部炎による障害が高度のため数名は車椅子で通院しています。
6)情報
■ 線維筋痛症の合併がみられる脊椎関節炎の新刊書発売 2008年9月
「症例から学ぶ脊椎関節炎 強直性脊椎炎、未分化型脊椎関節炎ほか」 浦野 房三 著
広範囲に疼痛をきたす脊椎関節炎は医療関係者には病名は知られているが、診断方法が十分に行き渡っておらず、X線所見や検査で異常がみつけにくい疼痛は線維筋痛症とされ、十分な対応がなされていないのが現状である。
本書では脊椎関節炎の症状、病態や関連の深い病気まで、その検査・診断、予後や治療法を実際の48症例を掲載し、わかりやすく解説した。その症例のほとんどは日常的にみられるものばかりである。
本書は脊椎関節炎についてまとめた本邦初のテキストであり、日常臨床に役立つ好著となった。リウマチ性疾患を学ぶ先生方にぜひご一読をおすすめしたい。
●http://shinkoh-igaku.jp/mokuroku/data/684.html
2008年発行 B5判 139頁 定価3885円(本体3700円+消費税5%) SBN9784880026848
株式会社新興医学出版社 〒113-0033 東京都文京区本郷6-26-8 TEL 03-3816-2853 FAX
03-3816-2895
■ふたつの有名なホームページがあります。
「血清反応陰性脊椎関節炎(血清反応陰性脊椎関節炎)」と「強直性脊椎炎(AS
Web)」です。
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